「雇用と競争について」について

内田樹先生(武道家、思想家)のブログに違和感があったので、反論、と言うわけでは無いが少し記事を。
# 最近技術的な話が少ないですが。。

http://blog.tatsuru.com/2011/10/20_1207.php

幾つかの話が混じっているが、気になるのは、国際競争の目的を先富論とし、

「勝ち抜けた産業分野」からの「余沢」に浴することによって、いずれ国民全体が経済的な恩恵をこうむるであろう。

これが、国際競争を重視する論者の考えだという。しかし、

だが、競争に勝った金持ちはイタリアでフェラーリを買い、フランスでシャトーマルゴーを飲み、ハワイにコンドミニアムを買い、ケイマン諸島に銀行口座を開くかもしれない。
彼を送り出すためにあえて貧乏を受け容れた「地元民」たちは「いずれ、『余沢』が及ぶ」という約束を信じて、手をつかねて待っているうちに貧窮のうちに生涯を終えた・・・という話になるかも知れない。

となるので、この考えは誤りだとしている。

順序が逆になったが、これはTPPに対する批判という論旨で書かれている。TPPは、かなり野心的な協定なので、この批判もある意味あたっているのかもしれない。

私が違和感を感じたのは、理論の流れが「国債競争を重視する政策」全般に向けられているように見えた点。
(TPP自体には、私自身も反対である。理由は単純で、あまりに政治臭すぎる。
もっとシンプルに多国間とFTAの結んだ方が良いと思う。
しかし、日本の政治力ではTPPの様なチャンスに載らないとFTAの拡大が難しい、と
経産省は考えているのかもしれない。それもまた正しいと思う)

といっても、違和感を感じた点を内田樹先生のブログの内容にそって反論するのは、私の文章力では足らなそうなので、別の観点から「国際競争」の必要性を述べお茶を濁しておく。

つまり、「国際競争を重視」した企業が、競争に勝って金持ちになりフェラーリを買う、という事が過去にあったのだろうか?という事。日本のメーカーは国際競争で奮闘し、今でも勝っている分野は多い。その会社は金持ちになって、フェラーリを買ったのだろうか。(役員は持ってるかもしれないが。。)

私は、エンジニアの立場として、国際競争は「自分たちが作りたいものを作り続けるために必要な競争」だと思っている。そもそもこの競争にのらなければ、ものづくりを辞めなければならない、というのが今の世界の動きのようだから、のるしか無い、と。
(なぜ、のらなければならないのか、は証明が難しそうなので、勘弁してください。。)

また、エンジニアしてはものづくりが続けられればどこで作っても良いと思う。
例えば、最近、元SANYOの白物家電部門がハイアールに売却された。個人的にはこれは喜ばしいことだと思う。白物家電を作ってきたエンジニアが、自分たちの白物家電を作り続けるチャンスを得たのだから。Panasonicにはハイエンドな白物家電のブランドが既にあるので、SANYOの白物家電を作り続けるのは難しい。Panasonic の既存のブランドの中でその技術は生きるが、SANYOの築いてきた白物家電の技術は一旦分断される。しかし、ハイアールには、Panasonicほどハイエンドな白物家電のブランドは無いので、SANYOのハイエンドな白物家電が生きるチャンスがいくらでもある。

といっても、内田樹先生の主張は、下村治『日本は悪くない、悪いのはアメリカだ』(文春文庫)の中の以下が政治に必要だという点である。

「本当の意味での国民経済とは何であろうか。それは、日本で言うと、この日本列島で生活している一億二千万人が、どうやって食べどうやって生きて行くかという問題である。この一億二千万人は日本列島で生活するという運命から逃れることはできない。そういう前提で生きている。中には外国に脱出する者があっても、それは例外的である。全員がこの四つの島で生涯を過ごす運命にある。
その一億二千万人が、どうやって雇用を確保し、所得水準を上げ、生活の安定を享受するか、これが国民経済である。」(95頁)

(私はまだ、『日本は悪くない、悪いのはアメリカだ』を読んでいない。。Amazonで注文したのだが、在庫切れのようで。。)

この点は当然、同意する。というか、反論の余地は無い。

しかし、だから「TPPはダメ」というのに違和感を感じる。
(繰り返しになるが、私もTPPには反対。でも日本には、FTAが足らない。)

先に書いたように、「国際競争」に載らなければ日本のメーカーはものづくりをつづけられない。
そのため、日本のメーカーは海外移転をしている。それで、ものづくりを続けられれば、それはすばらしいことだ。

が、それは内田先生の言う「一億二千万人がどうやって食べていくか」という話と直結しない。それは、日本が国際競争に適した土地では無いからだ。
だから、日本という土地で国際競争を出来るようにしたらいい。そのためには、FTAが必要。

というのが「国際競争」が必要だという理由だと、私は理解している。

しかし、内田先生のブログでは、国際競争論者がゴリ押しをしているという話に終始しているので、強い違和感を感じた。

補足:
書いた後に思ったが、長々かいたわりには、ここに書いたことって「日本に工場を残すにはFTAが必要」って事だけ。。。

追記 2011/10/25:

内田先生が同じネタでもう一度書いておられた。

グローバリストを信じるな
http://blog.tatsuru.com/2011/10/25_1624.php

同じ内容なので、追記で済ます。

「生産性の低い産業セクターは淘汰されて当然」とか「選択と集中」とか「国際競争力のある分野が牽引し」とか「結果的に雇用が創出され」とか「内向きだからダメなんだ」とか言っている人間は信用しない方がいい、ということである。

ではなく、「日本で重要な飯の種たる自動車産業・電機産業が海外に進出するのを防ぐためにグローバリズムが必要」という話ではないのか?
やはり、グローバリストを頭ごなしに批判することに強い違和感を感じる。