日本で電子書籍が流行らない理由

電子書籍について、そろそろ一言いっておく。

まず、日本において、電子書籍は儲からない。iPhoneアプリで出してる電子書籍で単体で儲かっている会社は日本には無いはず。
つまり、今でも、紙の本が圧倒的に売れている。

一方、アメリカはKindleが市場をほぼ独占。iBooksでさえ、うまくいってないほどの独占具合。
なぜアメリカでKindleが流行ったかというと、「安い、速い」から。アメリカの本は、日本の相場に比べると高い。また、本屋は日本に比べ、少ない。つまり、高い本をわざわざ、本屋に出向いて買っていたのがアメリカの昔の、書籍市場。
そこに現れたKindleは、書籍が安かった。Kindle登場時は、ハードカバーの小説が10ドル以下で売ってた。(今でも安く売ってるが取り扱い数が増えて、高いものも増えた。)そして、携帯電話のモデムが内蔵されていて、どこでもいつでも、一瞬で買えた。その安い、速いは圧倒的なイノベーションだった。

一方、日本には本屋が多く、本は安い。「安い、速い」は日本ではイノベーションでも何でもなく、日常だ。電子書籍は、もう少しやすく、もっと速くする余地があるのだが、現状に満足している市場に「改善」で、イノベーションは難しく、市場はゆっくりと変化する。

思い起こしてみれば、iTunes 等の音楽の配信サービスも日米は同じ構図だった。日本には強力なレンタルCDの店舗ネットワークがあり、ユーザーは、今でいうと自炊で満足していた。
しかし、より便利な配信サービスにゆっくりと市場は変化し、今、レンタル店は空前の灯火だ。(そういえば、レンタル店は今はコミックの貸本にシフトしているのはおもしろい話。)

というわけで、日本において、電子書籍へのシフトは緩やかにおこる、というのが結論なのだが、ここで、音楽と書籍は全然違うメディアであるということに触れておきたい。

音楽は、CDと配信サービスとの間に、ユーザー体験の違いは何もなかった。CDのジャケットが無いのは淋しいが、そういう寂しさを感じる人は今でもCDを買っている。ようは、レンタルと配信サービスの間に何の違いもない。

しかし、電子書籍は紙媒体の本とかなり違う。電子書籍はそれはそれで良さがあるが、多くのものは紙媒体の本の劣化版に過ぎない。小説ならほとんど変わらない、と、思われるかもしれないが、今のビューワーのほとんどは日本語組版の標準のレベルに到達していない。ようは、紙に比べ、読みにくいものになっている。もっともライトノベルなどであれば、ほとんど違いは感じられない。しかし、ハードカバーの本では途端に大きな壁にぶつかる。電子版と紙媒体の本を比べるとわかるが、ハードカバーの方が、圧倒的に魅力的な組版、レイアウト、デザインになっている。

ようは、紙の劣化版となる電子書籍をユーザーが買わないというのは仕方のない話、ということになる。
(長くなるので補足にとどめるが、アメリカでこの点が問題にならなかった理由は、洋書をみればすぐわかる。ハードカバーでも組版やレイアウト、デザインはシンプルだ。)

結論としては、日本で電子書籍が流行るにはかなりの時間がかかる。それは、市場が成熟している事と、日本の出版物の美しさにソフトウェアが全く追いつけていないから。
日本のソフトウェアベンダー、あるいはエンジニアには、日本語組版に追いつく事と、日本の本にはない新たな魅力を創出する事の責務がある。(待ってても海外からは来なさそうなので)

2011/10/22 補足:
Amazon が日本市場に来るそうですね。予想以上に早かった。